DX推進、その中でも攻めのDXの推進においてスピーディーな意思決定を行うためのデータの可視化、顧客コミュニケーションの改善や新サービスの提供などを行うべく、データ活用の取り組みをする際に、ほぼすべての企業で”データのサイロ化”問題にぶつかります。
この記事では、データのサイロ化とはなにか、またデータのサイロ化による問題とその解決のためのアプローチについてご紹介します。
目次
データのサイロ化とはなにか
データのサイロ化という言葉をDXに関するセミナーに参加したり記事を読んだりしている中で、見かけたことのある人は多いかと思います。
サイロ化におけるサイロとは、牧場において飼料を貯蔵するために利用される背の高い円筒形の貯蔵庫です。IT領域では、システムが部署ごとに分断されてしまいデータが連携されていない状態のことを、データのサイロ化と呼びます。サイロ化という言葉はデータ自体もそうですが、ビジネスにおいて業務が縦割りの組織構造によって分断されてしまっている状況に対しても用いられます。
データのサイロ化という言葉自体はイメージしやすくするための表現にすぎず、どのような企業でも起きるこの問題をどのようにして解決していくかが重要です。
データのサイロ化で多いケースは主に次の2つです。
縦割りの組織構造によるデータのサイロ化
会社として各部署を機能的に動かせるようにするため、適切な管理を行うため、さまざまな目的はありますが事業部を縦割りに構成することは非常に一般的です。縦割りの構造であることは、単一機能として成果を出すためにはメリットのある構造です。
一方で、それぞれの事業部で持っているシステムが分断してしまい、本来他の部署と連携することでシナジーの生まれるはずの情報=データが活用されない状態となってしまっていることは、企業全体で見たときにはデメリットが大きいのも事実です。
事業部ごとにシステムが分断されてデータが連携できる状態にないというデータのサイロ化は企業の成長の壁となります。また、他の部署に対してデータを連携、または他の部署からのデータ連携を行うためのコストをどこの事業部が持つのかといった議論が先行してしまい、なかなかプロジェクトが推進できないという問題も同時にはらんでいます。
組織論はさまざまですが、事業部の機能を横串で横断してシステムの選定を行えるようにしたり、包括的に判断を行う立場の役職を作ったりすることで、縦割りの組織構造による新サービスの提供などを行うべく、データ活用の取り組みをする際に企業が増えています。
ツールやシステムのアーキテクチャ設計によるデータのサイロ化
ツールやシステムのアーキテクチャ設計によるデータのサイロ化については、導入を行った人に責任があるように聞こえるかもしれませんがそうではありません。
日々、各企業の事業を取り巻く環境が変化していく中で、新たな取り組みを行ったり、業務プロセスを変化させる取り組みは当然行っていくべきことあり、その結果として発生するのがツールやシステムのアーキテクチャ設計によるデータのサイロ化です。
新しい取り組みを行うときに初めからすべての影響範囲を考慮することは不可能であり、また既存の業務プロセスを変更せずに取り組むことも不可能です。100%上手くいくという保証がない中で広いスコープで設計を行うこと自体が無駄になる可能性があり、企業全体のプロジェクトとして進めようとするとスピードが出ないことがネックになるケースも多々あります。
新たな取り組みを行う際に新たなツールやシステムを導入し、それらをスモールスタートで行うことは全く問題ありませんが、時間が経つに連れて適切なアーキテクチャではない状態になることは非常に多いケースです。
データのサイロ化による問題
事業部ごとにデータがバラバラになっていること、活用できていないこと自体を課題と捉えてしまうケースもありますが、そもそもシナジー効果が期待できないのであればデータのサイロ化は問題にはなりません。
データのサイロ化はどのような問題を引き起こすのでしょうか。
意思決定のスピードが遅れる、正確性が担保できない
データのサイロ化の問題として取り上げられ、日本でもDXの観点で取り上げられることが多い問題ですが、経営 / 事業 / 現場 どのようなレベルにおいても意思決定においてデータは重要です。スピードの観点でも正確性の観点でもレイヤーが上がれば問題の深刻度が上がります。
多くの企業がDXの取り組みとして適切な意思決定のためのデータ統合を始めています。業界によっては全体的に取り組みが遅れている場合もありますが、これから状況は大きく変化すると考えられます。意思決定に必要なデータに自由にアクセスできることが非常に重要になってきます。
データの可視化というとBIツールを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、BIツールを導入しても統合されたデータがなければ、意思決定に必要なデータを可視化することはできません。データのサイロ化を解消すること、意思決定に必要なデータを統合することがスタートです。
業務オペレーションの効率が悪い、改善しづらい
”意思決定のスピードが遅れる、正確性が担保できない”の内容にも関連しますが、日次や週次、月次でさまざまなシステムやツールのデータを収集し作成する定形のレポーティング業務は多くの企業で行っていることではないでしょうか。適切なデータ統合が行われていればこの業務自体を自動化することも可能です。
また、別の観点ではデータを深堀りして分析を行う際のデータの前処理や、メール配信といった実務においてもさまざまなツールのデータを引っ張ってきて手動で統合やセグメンテーションをしたうえで配信するという業務も、データが統合されていればより良い業務オペレーションを組むことができます。
各種データソリューションが活用できない
近年、AIや機械学習を用いたデータの活用が注目されていますが、データのサイロ化はそれらデータソリューションの活用も阻害します。機械に対して与えるデータは、機械が計算できる状態のデータにしておく必要があります。
人が分析を行う場合には、つながっていないデータに関しても経験などによって何ら化の因果関係を紐付けて評価することができますが、機械ではそのようなことは行なえません。
単一のデータのみでAIや機械学習を利用するのであればデータのサイロ化は課題になりませんが、より適切にデータソリューションを活用するためには、統合したデータを用意しておく必要があります。
顧客との適切なコミュニケーションが行えない
近年、カスタマー・エクスペリエンス(CX)やカスタマー・エンゲージメント(CE)といった言葉が注目を集めていますが、これらにおいて重要となる顧客観点でのコミュニケーションの見直しおよび実施のためには、データのサイロ化は大きな壁となります。
企業によってさまざまですが、マーケティングの事業部のうち新規獲得を目的としたチームや既存顧客との関係維持を目的としたCRMのチーム、顧客の対応を行うカスタマーサポートの事業部、また対面で接するセールスの事業部や店舗の担当者など、多くの事業部や人が関わります。
CXやCEの取り組みはどこかの事業部単独で行うことで推進できるものではなく、事業部を横断したさまざまな顧客接点におけるデータを用いて判断しコミュニケーションを行うことで推進するものです。
取り組みとしてスモールスタートになるケースも多いかもしれませんが、各接点のデータ統合を将来的に行うことをイメージしながら進める必要があります。
分断されたデータの統合は難易度が高い
データのサイロ化の根深い問題として、分断されてしまったデータは非常に統合しづらいことが挙げられます。システムによって異なるIDで管理されてしまっていたり、そもそも適切なIDが付与されていなかったりするケースも少なくありません。
すでにデータのサイロ化が起きてしまっている場合は、これ以上サイロ化が進行しないような環境の構築を進めることが必要であり、すべての企業においてデータのサイロ化が起きない、起きづらい環境を構築しておくことはDXの取り組みの中で非常に重要です。
データのサイロ化にを起こさないためのアプローチ
データのサイロ化に対するアプローチの1つが、データの統合を目的としたソフトウェアの導入です。すでに構築されているシステム自体をそのまま活かしながら、データの統合が行えます(ただし、構成によっては中長期的に既存のシステムの見直しや廃止も当然ながら必要となります)。
顧客ベースでのデータの統合を行いたい場合には、CDP(Customer Data Platform)も解決策の1つです。CDPは、特にマーケティング観点でのデータ統合・活用のために必要な機能を備えています。
CDPとはなにか、その構成についてはこちらの記事も参考にしてください。
データのサイロ化を防ぐため、またデータをうまく活用できる状態にするためのアプローチとして共通して言える2つのことがあります。
1つは統合のKeyとなるデータが存在するツールおよびシステムの構成にすることです。共通のIDを持っていることが理想ではありますが、複数のIDが存在していてもそれらが独立したものではなく、統合を行えるKeyとなっていればデータのサイロ化を防ぐことができます。
もう1つは、APIを提供しているツールを選定したりシステムを構築したりすることです。データのインポートおよびエクスポートが手動ではなくプログラムで行える状態を構築しておき、統合のKeyとなるデータが存在していればスモールスタートで初めた後でも、低コストにデータの統合が行えます。
さいごに
データのサイロ化は、DX時代において多くの企業がぶつかる壁です。この壁を超えるためのアプローチを行わなければDXの推進が停滞するのみでなく、DXの取り組みを行っているつもりがデータのサイロ化をより深刻化する可能性さえあります。
ただし、目的のないデータ統合はただ単に高コストなデータ基盤を構築するのみになってしまう可能性があります。どのようにデータを活用するのか、目的を明らかにしたうえでプロジェクトを推進する必要があります。
データ統合プロジェクトの進め方についてはこちらの記事も参考にしてください。
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